東京高等裁判所 平成10年(行ケ)360号 判決 1999年9月30日
原告
株式会社コバヤシ
代表者代表取締役
A
訴訟代理人弁理士
B
被告
C
訴訟代理人弁護士
松本司
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
「特許庁が平成10年審判第35067号事件について平成10年10月9日にした審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯
被告は、名称を「包装用トレー」とする考案(実用新案登録第1712320号。昭和54年4月11日出願。昭和62年12月21日設定登録。本件考案)の実用新案権者であるが、原告は、平成10年2月20日、本件実用新案登録について無効審判の請求をし、平成10年審判第35067号として審理されたが、平成10年10月9日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同月26日原告に送達された。
2 本件考案の要旨
被包装物を盛付けしたトレーの上面にストレッチフィルムをオーバーラップして糊付面に接着させたのちトレーの周囲上縁の近傍でフィルムを切断して包装体を形成するために使用するトレーであって、平坦な底板と、上記底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁と、上記周壁の上部外側面全周に形成された略垂直な接着剤塗布面とを具備し、上記トレーの接着剤塗布面を、多数個のトレーを重ね合わせたとき、各トレーの接着剤塗布面が露呈して連続した略垂直な面として柱状を呈する如く形成したことを特徴とする包装用トレー。
3 審決の理由の要点
(1) 本件考案の要旨は前項のとおりと認める。
(2) 原告(請求人)の主張
新たな証拠方法(審判甲第4号証)を追加し、同審判甲号証には本件実用新案登録に対して、先に請求した無効審判(平成6年審判第17428号)の審決(審判甲第6号証)において公知でないとされた事項が記載されているので、本件考案は、審判甲第2号証に記載された考案及び審判甲第3号証ないし第5号証に記載された考案に基づき当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるから、その考案に係る実用新案登録は、実用新案法3条2項の規定に違反してされたものであり、無効とすべきものである。
そして上記の主張事実を立証するために引用した証拠方法は次のとおりである。
審判甲第1号証:実公昭62-15155号公報(本件公報)
審判甲第2号証:実公昭39-38574号公報
審判甲第3号証:実願昭51-126274号(実開昭53-45102号)のマイクロフィルム
審判甲第4号証:米国特許第3593909号明細書
審判甲第5号証:実願昭48-27622号(実開昭49-128604号)のマイクロフィルム
審判甲第6号証:平成6年審判第17428号審決
(3) 被告(被請求人)の主張
審判甲第4号証には、本件考案の技術思想を開示、示唆していないので、本件考案は、審判甲第2号証ないし第5号証に記載された考案に基づき極めて容易に考案をすることができたものでないので、その考案に係る実用新案登録は無効にされるものではない。
そして上記の主張事実を立証するために引用した証拠方法は次のとおりである。
審判乙第1号証:米国特許第3593909号明細書(審判甲第4号証)の訳文
審判乙第2号証:平成7年(行ケ)第173号審決取消訴訟事件判決
(4) 審決の判断
(a) 審判甲第2号証に記載された考案
「大体平らな底の部分と、上方に延びた側壁と、前記側壁の頂部から下方に延び、.該側壁の全周囲のまわりに接している唇とを持った容器、前記容器の中に置かれた包装さるべき品物、および前記品物と容器との頂部を覆い、前記容器の全周囲のぐるりに前記唇の下に延びた後縁のある熱収縮性フィルム材料のシートを備えて居り、前記シート後縁は前記容器の唇と拘束係合をするように唇の全周囲の下に収縮され、前記シートの残りの部分は品物と容器との頂部を覆うて緊張したしわのないカバーを形成するように熱収縮されている所の容器包装。」(実用新案登録請求の範囲)が記載されており、さらに、容器の細部に関して次のとおり記載されている。
「容器の側壁は一般に底から外方に開いていて、容器を取扱ったり貯蔵したり、その他の目的に対して容器を整然と積重ねることを可能としている。」(2頁左欄5~8行)
「下方に延びた唇あるいはフランジは、フイルム・カバー・シートを緊張する好適の縁を形成し、接着剤を施こすことの出来る表面積を持ち」(2頁左欄14~17行)
「側壁の頂部から下方に延びて僅かに開いている唇24が縁21の外縁に接して容器の全周囲のまわりに備えられている。」(2頁右欄17~19行)
これらの記載によると、審判甲第2号証には、
「被包装物を収納したトレーの上面にフィルムをオーバーラップして糊付面に接着させたのちトレーの周囲上縁の近傍でフィルムを切断して包装体を形成するために使用するトレーであって、平坦な底板と、上記底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された側壁と、上記側壁の頂部の外周面全周から下方に延びて僅かに開いている接着剤を施すことの出来る表面積を持つ唇とを具備した包装用トレー。」の考案が記載されていると認める。
(b) 対比・検討
本件考案と審判甲第2号証に記載された考案とを対比するに、審判甲第2号証に記載された考案における「容器」は、皿状を呈し、品物を収納するものであるから、トレーということができ、また、審判甲第2号証に記載された考案における「唇」は、本件考案における「周壁の上部外周面全周に形成された略垂直な面」に相当するので、本件考案と審判甲第2号証に記載された考案とは、被包装物を盛付けしたトレーの上面をフイルムで被覆して包垂体を形成するために使用するトレーであって、平坦な底板と、上記底板の周囲から上方へ拡開傾斜して一体に延長された周壁と、上記周壁の上部外側面全周に形成された下方に延びる接着剤塗布面とを具備した点で一致し、次の(イ)、(ロ)及び(ハ)の点で相違している。
(イ)周壁の上部外側面全周に形成された下方に延びる面は、本件考案では、略垂直な接着剤塗布面として構成されているのに対し、審判甲第2号証に記載された考案では、僅かに開いた接着剤塗布可能な唇として構成されている点。
(ロ)周壁の上部外側面全周に形成された下方に延びる面は、本件考案では、多数個のトレーを重ね合わせたとき、各トレーの接着剤塗布面が露呈して連続した略垂直な面として柱状を呈するごとく構成されているのに対し、審判甲第2号証に記載された考案では、唇は下方に向かい僅かに開いているので、多数個のトレーを重ね合わせても、その面は鋸歯状となり連続した略垂直な面を呈しない点。
(ハ)包装体として使用する際のフィルムが、本件考案では、ストレッチフィルムであるのに対し、審判甲第2号証に記載された考案では、熱収縮性フイルムである点。
そこで、上記相違点について検討するに、相違点(イ)で指摘した、本件考案が備え、審判甲第2号証に記載された考案が備えていないとした構成は、先の審決において公知の事項でないとされた構成であり、原告は上記のとおりこの構成は、審判甲第4号証に記載されていると主張するので、まず、審判甲第4号証に原告の主張するような事実が記載されているかどうか検討する。
審判甲第4号証には、「少量の液体用の反応容器で、鋭い金属管で突き破るようにした蓋を備えており、この蓋は容器の口全体を実質的に覆う箔から成っており、この箔は破られた穴のふちが金属管の外壁に弾性変形して密着するように十分な弾性を備えている。」(特許請求の範囲1)の発明が記載されており、おり、さらに、その発明の好ましい例として、「この反応容器の上端には外方に広がる端フランジ2を備えており、箔3がフランジ上に展張され、その周囲に融着されている。」(2欄34~37行)と記載されている。
ところで、上記引用箇所の文脈からして、箔はフランジの上面では展張されるだけで、容器本体に対する融着はフランジの上面以外で行っていると解することもできるので、「その周囲」は、フランジの外側面を意味するものと取れないこともないが、審判甲第4号証には、端フランジの外側面が垂直であると文言をもって記載されていないし、さらには、その外側面が接着剤塗布面であることも何ら記載されていない。
また、審判甲第2号証、審判甲第3号証及び審判甲第5号証には、相違点(イ)で指摘した、本件考案が備え、審判甲第2号証に記載された考案が備えていないとした構成は記載されていない。
なお、審判甲第4号証に記載された反応容器は、多数重ね合わせたとき、フランジの周壁面が連続した略垂直な面として柱状を呈するべく構成されているともいえない。
(c) まとめ
審判甲第2号証、審判甲第3号証、審判甲第5号証のいずれも、先の審決(審判甲第6号証)において証拠方法として検討されたものであり、本件考案が、それらの審判甲号証に記載された考案に基づき当業者が極めて容易に考案をすることができないことは、平成7年(行ケ)第173号審決取消訴訟事件判決(審判乙第2号証)において維持された先の審決(審判甲第6号証)で説述したとおりであり、審判甲第4号証には、先の審決(審判甲第6号証)で、周知又は公知でないと指摘した構成が記載されていないから、さらに検討するまでもなく、本件考案は、審判甲第2ないし第5号証に記載された考案に基づき当業者が極めて容易に考案をすることができたものということはできない。
(5) 審決のむすび
以上のとおりであるから、原告の主張する理由及び引用した証拠方法によって、本件考案に係る登録を無効にすることはできない。
第3 原告主張の審決取消事由
審判甲第4号証には「垂直フランジの外側面を接着剤塗布面とする」ことが記載されているにもかかわらず、審決は、「審判甲第4号証には、端フランジの外側面が垂直であると文言をもって記載されていないし、さらには、その外側面が接着剤塗布面であることも何ら記載されていない。」としたが、これは、審判甲第4号証(本訴甲第5号証)に記載の技術内容の誤認であり、その結果、審決は誤って本件考案の進歩性を肯定したものであるから、違法として取り消されなければならない。
1 審決は、審判甲第4号証(本訴甲第5号証)には「この反応容器の上端には外方に広がる端フランジ2を備えており、箔3がフランジ上に展張され、その周囲に融着されている。」(2欄34~37行)と記載されていると認定している。
2 ところで、甲第5号証の当該部分の原文は以下のとおりである。
「The upper edge of this reaction vessel has an outwardly extending edgeflange 2. A foil 3 is stretched over this edge flange and is welded to theperiphery thereof.」
「over」は「を越えて」の意味も有し、「weld」は「接着する」の意味も有し、「periphery」は「外面」の意味も有するのである。このように解すると、審判甲第4号証の上記引用原文の後半部分は「箔3がフランジを越えて引っ張られ、フランジの外面(外側面)に接着されている。」の意味となり、そのような内容の技術が開示されていると理解することができる。
また、審判甲第4号証には、「フランジの外側面が垂直」であることについて文言では記載されていないが、その第1図、あるいはフロントページの図(別紙審判甲第4号証図面参照)を見れば、「垂直」あるいは「略垂直」であることは一見して明らかであるところ、図面から読み取れる事項も、審判甲第4号証の明細書に記載された事項(考案)である。したがって、「フランジの外側面が垂直であること」は審判甲第4号証に記載されているのであり、審決の「端フランジの外側面が垂直であると文言をもって記載されていない」とする認定は誤りである。
3 さらに、審判甲第4号証の明細書において、フランジ2と箔3との関係は、「welded」と説明されているのみである。そして、「weld」の意味は「接着させる」と理解することができる。「接着」と理解すれば、必ず接着剤塗布面が必要である。そして、審判甲第4号証の上記記載部分は、「フランジ外側面」に接着する意味にとることができるものであり、そうであれば、「フランジ外側面」を接着剤塗布面とすることは、当然に理解される。
また、審判甲第4号証のフロントページの図を子細に観察すると、フランジ2と箔3との境界線の表現において、フランジ上面と箔との間の線よりも、フランジ外側面と箔との間の線の方が太く表されている。このことからも、「太線」によって接着剤の存在を示している、と理解することができる。
したがって、フランジの外側面が接着剤塗布面であることは実質的に記載されているというべきであり、この点に係る審決の認定は誤りである。
4 審判甲第4号証における「weld」、「periphery」を被告が主張するように解する余地があるとしても、ここにおける「periphery」を「端フランジ2の縁部」というように限定的に解すべき根拠は見いだせない。
審決が認定するように、「箔はフランジの上面では展張されるだけで、容器本体に対する溶着はフランジの上面以外で行っていると解することもできるので、『その周囲』は、フランジの外側面を意味するもの」と理解することができるのである。
5 被告は、「weld」は接着剤による接着を意味しないと主張する。
審決においては、審判甲第4号証の構成を「融着」と認定しつつも、「接着」と「融着」の差異には何ら意義を見いだしておらず、ここで重要なのは、容器の垂直面にフィルム(箔)が固着されていることであり、ラップフィルムを接着剤で接着することは周知の技術である。
したがって、もし審判甲第4号証に開示された技術が「接着剤」を用いないものであるとしても、審判甲第4号証には垂直面にフィルムを固着する技術が開示されている以上、固着手段のいかんは本件考案の進歩性がないことを左右するものではない。
第4 審決取消事由に対する被告の反論
審決の認定判断は正当であり、原告の取消事由は理由がない。
1 「weld」の意義
(1) 用語としての「weld」の意義
原告は審判甲第4号証に記載されている「weld(ed)」には「接着」の意味もある旨主張するが、「weld」は「溶接」又は「鍛接」という加熱した接合の意味である。
仮に「weld」に「接着」との訳があったとしても、それは接着剤を用いた接合の意味ではない。接着剤を用いた接合の場合は「bond」又は「cement」である。
(2) 技術的観点からの「weld」の意義
審判甲第4号証の発明の技術内容からしても「weld」を接着剤を用いた「接着」の意味と解釈することはできない。
すなわち、審判甲第4号証の発明の反応容器においては、誤反応を防止するため使用毎に洗浄する必要性があることを前提としており、これに対し、活性の強い化学物質である接着剤を使用することは考えられない。
さらに、上記発明の容器は箔と共にポリプロピレンを基材とするプラスチックで組み立てられ、この容器と箔は100℃に加熱することが可能であるとされており、ホリプロピレンの接着剤であって100℃まで加熱できるような接着剤は存在しない。
そして、ポリプロピレンは、「強酸、強アルカリにも抵抗し、普通溶剤には溶けない」性質を持っているから(乙第6号証)、これに対しては、加熱による融着が最も適切な接合方法である。
そもそも、審判甲第4号証には「接着剤塗布」、「接着」をうかがわせるような記載は一切ないのである。
2 「periphery」の意義
原告は、審判甲第4号証に記載されている「periphery」には「外面」の意味もある旨主張するが、主たる意味は「面の端、縁」という意味である。つまり、審判甲第4号証の発明の反応容器の箔は端フランジ2の縁部で融着される構成であると説明されているのである。
3 以上のように、審判甲第4号証の発明には、本件考案のような略垂直な接着剤塗布面の構成(審決認定の相違点(イ)参照)がない。
そして接着剤を塗布しない以上、多数個のトレーを重ね合わせたとき、各トレーの接着剤塗布面が露呈して連続した略垂直な面として柱状を呈するごとくする構成(審決認定の相違点(ロ)に関する構成)は示唆も開示もされていない。
4 審判甲第4号証の発明は、少量の液体を貯蔵する反応容器に関する発明であって「金属管の外側表面に液体が付着することなく、液体を出し入れできて、さらに、金属管の挿入後も続けて全くほこりの付かない蓋を備えたものである。」(原文1欄60~65行)の発明であるのに対し、本件考案は肉、魚等の包装用としてストレッチフィルムをトレー上にオーバーラップした包装用トレーに関する考案であって、両者は技術分野、技術課題(目的)、作用効果が全く異なる。
第5 当裁判所の判断
1 本件考案の内容
(1) 甲第2号証(本件考案の実用新案出願公告公報)によれば、本件考案に関し、本件明細書に以下の記載があることが認められる。
「本件考案は、包装用トレーに関するものである。」(1欄15行)、
「現在、スーパーマーケット等において、肉、魚等の包装用としてストレッチフイルムをトレー上にオーバーラップした包装用トレーが一般に使用されている。
この種従来の包装用トレーは、トレー全体をストレッチフイルムで包み、そのトレーの裏側において、前記フイルムを二重、三重に重ね合せ、かつ、フィルムの自己粘着性を利用してシールしていた。これであるとトレーの開口面積の2~3倍の面積のフィルムが必要となり、したがって省資源の叫ばれている今日では非常に無駄であると共に、その重ね合せ部分には皺ができ、この部分から汁が浸出してきてひどい場合は、そのシールがバラケたりしていた。更に、上記包装用トレーは、その裏側までフィルムを重ね合せられているため、それに掛る作業手間が過大となり、能率の低下につながり好ましくなかった。」(1欄16行~2欄4行)、
「本考案は従来の包装用トレーの上記の欠点に鑑み、これを改良除去したもので、即ち、トレーの材質に関係なくフィルムを皺なく、確実強固に密着させて包装することができ、しかも、フィルムの使用量を減少させることができ、特に食品衛生上にも問題がなく、作業性及び取扱い性に優れ、外観的にも良好な包装形態が得られる包装用トレーを提供せんとするものである。」(2欄5行~12行)、
「(この考案は、)接着剤を塗布するに当って、多数のトレーを重ね合せると、各トレーの周壁は、上部を除く大部分が重合し合って隠れ、各トレーの周壁外周面上部の立った接着剤塗布面のみが角柱の外周として整然と配列露出し、接着剤塗布ローラ等によって、上記各トレーの接着剤塗布面のみに一斉にかつ、容易に接着剤を塗布することができ、接着剤の塗布作業が極めて容易となると共に、塗布作業能率を向上させることができる。
また、上記のようにトレーの周壁上部側面に接着剤を塗布してあることにより、明細書記載の包装方法によると、トレー上にオーバーラップされるフィルムの使用量を減少させ、皺なく包装させ得ると共に、トレーへの食品の盛付け時、食品が接着剤に触れることもなく、衛生的で美麗な包装品が得られる。」(6欄44行~8欄1行)。
(2) これらの記載によると、次のように認めることができる。
本件考案は、スーパーマーケット等において、肉、魚等を包装するためにストレッチフイルムをオーバーラップした包装用トレーに関する。
従来の包装用トレーは、トレー全体をストレッチフイルムで包み、トレーの裏側で重ね合せ、フィルムの自己粘着性を利用してシールしていたので、多大の面積のフィルムが必要となり非常に無駄であると共に、その重ね合せ部分から汁が浸出してシールがバラケたり、更に、包装の作業手間が過大となる問題があった。
そこで、本件考案は、従来の包装用トレーの欠点を改良除去することを課題に、多数のトレーを重ね合せたときに、各トレーの上部の周壁が積み重ねられて連続した垂直の外周を形成するようにし、この外周面に接着剤塗布ローラ等によって一斉にかつ容易に接着剤を塗布することができるように考案の要旨の構成を採用したから、接着剤の塗布作業が極めて容易で、フィルムの使用量および包装の手間を減少させ、衛生的で美麗な包装品が得られるという作用効果のものである。
2 審判甲第4号証に記載の技術内容の検討
(1) 甲第5号証(審判甲第4号証)及び乙第1号証(審判甲第4号証の訳文)によれば、審判甲第4号証には以下の記載があることが認められる。
「少量の液体用の反応容器で、鋭い金属管で突き破るようにした蓋を備えており、この蓋は容器の口全体を実質的に覆う箔からなっており、この箔は破られた穴のふちが金属管の外壁に弾性変形して密着するように十分な弾性を備えている。」
(特許請求の範囲1)、
「箔の厚さが0.08ミリ~0.35ミリの範囲にある特許請求の範囲1の反応容器」(特許請求の範囲2)、
「箔が容器の上端に融着によりくっついている特許請求の範囲1の反応容器」(甲第5号証特許請求の範囲3)、
「箔と容器の両方がポリプロピレン基材のプラスチックで組み立てられている特許請求の範囲1の反応容器」(特許請求の範囲9)、
「この発明は、少量の液体を貯蔵する反応容器に関するものである。」(甲第5号証1欄6~7行)、
「第1図を見ると、典型的な反応容器1が図示されているのが分かるであろう。この反応容器の上端には、外に向かって広がる端フランジ2があり、箔3が先の平らな輪の上に展張されてその周囲に融着されている。」(甲第5号証2欄33~37行)、
(なお、乙第1号証では“edege flange 2”を“先が平らな輪2”と訳しているが、原告も争っていない審決使用の“端フランジ2”の用語によるのが相当である。)
「図1の箔3は、容器のふち1にわずかにテンションをかけて固着させるのがよい。」(甲第5号証2欄56~57行)。
(2) これらの記載及び審判甲第4号証(本訴甲第5号証)の第1図(別紙審判甲第4号証図面参照)によれば、審判甲第4号証には、少量の液体を貯蔵する反応容器に関し、この反応容器の上端には、外に向かって広がる端フランジ2があり、箔3が端フランジ2の上に展張されてその周囲に融着され、あるいは、箔が容器の上端に融着によりくっつくように形成する技術が開示されていることが明らかである。また、箔3が(プラスチック)フィルムに相当することも示されているということができる。
(3) そこで、箔3がフランジ2に融着される位置について検討する。
まず、箔が展張される位置として、反応容器の上端にあって外に向かって広がる端フランジ2の上と記載されているところからすると、当該位置は、容器の上端を構成するフランジの半径方向に広がる上面をいうことが明らかである。また、箔が容器の上端に融着されるとも記載されていることと、箔が展張される位置でフランジに融着されることが明らかであることからすると、箔が融着されるフランジの周囲とは、一義的に容器の上端を構成するフランジの半径方向に広がる上面を指すと解さざるを得ず、これ以外の、例えば、フランジの円周方向にある外側面を指すものと解することはできない。
しかも、審判甲第4号証の反応容器が、外に向かって広がる端フランジ2を形成していることの技術的意義を検討すると、審判甲第4号証の発明においては、金属管で破られた箔の穴のふちが金属管の外壁に弾性変形して密着するように十分な弾性を備えるべく、箔3を端フランジ2の上に展張させて融着させる、あるいは同じ意味であるが、箔3にテンションをかけて容器のふち(上端)に固着させる、という手法を採用しているから、これにより箔に発生する張力によって箔がフランジから剥離することがないように、容器の上端を構成するフランジの半径方向に広がる上面において、融着面積を広く確保して確実に固着させる作用目的を考慮したものであることは明らかである。
(4) また、審判甲第4号証に記載されている「weld」が、物を熱的に溶融させて接合(固着)させることを指す「融着させる」意味で使用されていることは、乙第3ないし第5号証の各英和、英々辞典に照らして明らかである。
そして、上記認定の記載によると、審判甲第4号証に記載の発明では接着剤を使用しないことが明らかであるから、フランジ外側面と箔との境界線が太く表されていることをもって、接着剤の存在の根拠とする原告の主張は理由がない。
3 まとめ
以上のとおりであり、審判甲第4号証には、その外側面が接着剤塗布面であることが記載されていないとした審決の認定に誤りはない。
原告は、審判甲第4号証においては、フランジの外側面を箔の接着面若しくは融着面としていると主張する。原告主張のとおりであれば、フランジの上面と外側面とでは箔と容器を固着させる作用効果が別異のものとなることは明らかであるから、箔がフランジを越えさらにフランジ外側面を覆う程度にまで引っ張られ、そこで融着されることが当然記載されているはずのところ、甲第5号証によれば、審判第4号証にはそのような記載はもとより、フランジの外側面を明示する記載もないことが認められる。したがって、原告の上記主張は審判甲第4号証に基づかないものであって理由がない。
なお、甲第5号証によれば、審判甲第4号証の各図面において、フランジの外側面が垂直であることが認められるので、審決が、審判甲第4号証には、端フランジの外側面が垂直であると文言をもって記載されていないと認定したのは正確とはいえないが、前示のとおり、この外側面が箔との融着面でない以上、審判甲第4号証に、外側面が接着剤塗布面であることが記載されていないとした審決の認定に誤りはないというべきである。
よって、原告主張の審決取消事由は理由がない。
第6 結論
以上のとおりであり、原告の請求は理由がないので、主文のとおり判決する。
(平成11年9月16日口頭弁論終結)
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)
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